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【取材記事】増える発達障害の子どもとその家族へ、新しい支援体制と学びの場を提供する民間の「発達サポートスクール」の必要性

Study Lab Roots(スタディラボルーツ)

Study Lab Roots(スタディラボルーツ)は、“生きにくさ”を感じる子どもとその家族のための「 発達サポートスクール」です。教育分野では発達の専門家の数が足りておらず、医療分野では学習指導ができない中、保護者からは、勉強はできるけれども、発達のことで気になることがある。けれども周りに相談しにくいという悩みがよく聞かれます。そのような背景から、プライバシーが守られながら気軽に相談できる、発達相談のサードスペースとしてサポートスクールを設立。臨床心理士・公認心理師が常駐し、医療と教育の双方から非認知能力を伸ばすサポートをしています。今回は、スクール設立のきっかけや、現在の子どもたちを取り巻く現状、今後の展望などをStudy Lab Rootsマネージャーの徳本様に伺いました。




【お話を伺った方】

徳本潤子(とくもと じゅんこ)様
Study Lab Rootsマネージャー
愛知学院大学大学院心身科学研究科心理学専攻修士課程を修了後、愛知県内の精神科クリニックにて勤務。子どもから大人までのカウンセリングを行う。東京にてアスリートの非認知能力と競技成績の研究プロジェクトや海外移籍のための英会話カリキュラムの作成に参加。2020年から名古屋市内の学習塾にて、発達障害の子どもへの学習指導に携わる。専門は臨床心理学、精神分析、マインドフルネス認知行動療法、発達障害の理解と家族支援。
資格/(財)日本臨床心理士資格認定協会・臨床心理士、公認心理師(国家資格)


■発達障害児に特化した学習支援システムの必要性


mySDG編集部:Study Lab Roots(以下、スタディラボルーツ)「発達サポートスクール」を始めたきっかけから伺います。

徳本さん:発達障害(※1)や、発達グレーゾーン(発達障害の傾向がある人)というような、いわゆる“発達でこぼこ”が疑われる子どもを対象として「学習を通した支援」をコンセプトに立ち上げました。
私は精神科で14年間臨床心理士として働いてきましたが、近年、発達障害かもしれないと病院を受診される子どもの数が大幅に増加しているように思われます。 発達障害やアスリートの学習支援も行っている中で、発達障害の子どもに特化したサポート体制を整えることが必要と感じ、この学習塾を始めました。

ある小学校2年生の子に出会ったときのエピソードなのですが、その子には読み書き障害があって、授業についていけなくなっていました。ひらがなを読むのもとてもゆっくりで、教科書を読むこと事態が大変なんですね

3年生に進級するときに、その子は漢字が苦手だったので、「2年生の復習をした方がいいのか、3年生の予習をした方がいいのか」と、保護者の方が学校に相談されたんですね。そしたら学校からは「漢字学習よりも文字が読めないから、ひらがなの練習をしてください」と言われたと泣きながら私に話されたんですね。
でも、学校の特別支援学級には入れないんです。学習障害(以下、LD ※2)やADHD ※3、自閉症スペクトラム症(以下ASD ※4)の子どもの多くは通常の学級に所属しながら、必要に応じて通級でのサポートを受けるのがほとんどです。しかし、その学習の仕方だと、クラスで授業を受けてもやっぱり授業についていくのは大変なんですね。
そんな子どもたちを取り残さないために、LDやADHD、ASDの子どもたちに特化した学習支援が必要だと思いました。

mySDG編集部:学校の特別学級はどういった子が対象なのでしょう?

徳本さん:文科省の方針だと特別支援に入れるのは身体の障害や自閉症、言語障害など、一部の障害に限定されているんですね。定員の問題もありますし、特別支援級がない学校もあります。対応可能かは、住んでる地域によってだいぶ変わってきますね。


■個性を尊重し、自信と忍耐力を養う「子ども発達サポートスクール」

mySDG編集部:スタディラボルーツとしては、どういった学習支援を提供していらっしゃるんですか?

徳本さん:一般的な学習塾と違うのは発達の専門家がいるということです。なのでいつでも発達検査を受けて頂けますし、勉強以外の相談もできます。子どもの得意不得意を数値で観察し、一緒に授業スタイルを決めていくことで、子どもたちは「自分は他人より集中力が切れちゃうな」と、自分の特徴に気づくんですよね。私も「あなた、15分経ったらスマホ見始めるね」など、あえて言葉にすると、子どもの方から指導方法や対応の仕方を相談してくれるようになります。
学習内容としては、学校の宿題をやる子や、テスト勉強する子、プラスアルファの学習で自分で持ってきたワークをやる子もいます。

mySDG編集部:塾の教材ではなく、自分で学習内容を決めるのですね。

徳本さん:そうですね。塾には決まった教材はないですね。一緒に目標を立てるところからカリキュラムはスタートします。例えば、点数はとれているのに、自分はできないと思い込んでいて「この点数じゃ駄目なんだ」など自己肯定感が極端に低い子どもには、ポートフォリオを作って成果を示すように促します。ほかには学校の勉強ではない内容に取り組む場合は、一緒に寄り添って、学びを深めるサポートをしていきます。

mySDG編集部:なるほど。学習をする場を用意して、前向きに取り組んでいくサポートをするんですね。

徳本さん:事前に保護者との連絡方法やコミュニケーションの取り方を話し合い、学習コンテンツを作成していきます。 保護者の方とはLINEで連絡を取り合っており、「来週試験があるけど課題が間に合わないので見てください」という状況もサポートしています。
日々の学校の勉強に関する困りごとを、子どもと一緒に解決していく中で、子ども自身も自分の特徴に気付くことがあります。それらに対して、「スケジュール管理が苦手なら、2週間前には予定を立てよう」など、声をかけていくと、少しずつ準備ができるようになっていくんです。あとはその子にあった課題で楽しく学ぶことです。学習は継続が大切ですからね。

mySDG編集部:きめ細かくて、粘り強いサポートですね。それに小学生から高校生までと、幅広い年齢の生徒さんが対象なのですね。

徳本さん:SDGsにも繋がると思うんですが、早期の教育、子供の非認知能力 ※4 を上げるのは、小学校中学校の年代で取り組むことが一番いいんですね。自信やグリッド(やり抜く力)などの非認知能力を育てることによって、大人になってから社会で生き抜く力が身につきます。ですので、小・中学生をメインで考えていましたが、意外にも高校生からのニーズが多かったんです。通信高校に在学中だけど課題ができないとか、いろいろな理由で、塾で勉強ができないとか、そもそも外に出られないとか。不登校の子は高校生が多い印象ですね。

mySDG編集部:徳本さんは、小学生から高校生までサポートしているのですか?

徳本さん:はい。いろいろと経験できるので、すごく楽しいです。高校生と一緒に不明点を調べたり、中学生の曖昧でよく覚えていない漢字なども一緒に調べたりしています。先生も分からないことがあるんだと言われることも多いですし、先生に教えてあげるよという子どももいます。授業形式というより、「子ども発達サポートスクール」ですね。
海外の日本人学校からも見て欲しいっていう問い合わせも来るので、今後はオンラインにも対応していきたいと思っています。

mySDG編集部:塾のスタートは昨年の10月からなんですね。

徳本さん:はい。まだまだ始めたばかりです。愛知県のスタートアップの補助金の採択先に選ばれて始めさせていただいたので、地域の方々に還元していきたいと考えています。


■障害を個性として捉え「誰も取り残さない日本社会」へ

mySDG編集部:“生きにくさ”を感じている子どもの学習サポートは、SDGsの観点からも大変意義があることだと感じます。事業を始めるにあたって、SDGsや社会貢献について意識していましたか?

徳本さん:元々は意識はしていなかったですね。教室の中で取り残されている子がいる、その子たちを支援したいと思った時にSDGsの目標と合致しました。学校で対応できない部分、病院で対応できない部分のサポートが必要だと感じていました。発達障害を持っていても通院していない子どもが、かなり多くいるように思いますので、病院に行く手前で相談できるサードスペースを作りたかったんです。

ホームページなどにSDGsのロゴを使用していますが「誰も取り残さない」というSDGsのフレーズが私たちの目標にマッチしていて、塾をオープンする前に国連にSDGsのロゴを使う申請をしたんです。これから新しく始める事業はSDGsの意識を土台とすることも必要なことだという気持ちもありましたね。

mySDG編集部:世の中ではインクルーシブ教育という教育システムが注目されていて、スタディラボルーツはこうした共生社会を目指す塾だと思いますが、経営されていく中での困難や課題などはありますか?

徳本さん:「ここに通うこと=発達障害」と、子どもには思って欲しくないんです。「発達障害」という病名は大人と医療が付けたラベルであって、あなたは発達障害ですと子どもに告げることに、私は少し違和感を感じるんです。
子どもは自分の特性を自覚しておけばいいのであって、診断名がつくということは福祉サービスの利用には必要ですが、子ども自身にとって必要なことなのかは迷います。発達障害という言葉自体が、もう少しまろやかにマイルドになればいいと思っています。
子どもに診断名がつくことに抵抗があるのは当然ですし、精神科へ受診すること事態に日本独特のスティグマがある社会ですよね。例えそういう社会だったとしても、子どもや親が少しでも笑顔で、歩めるようになれることが理想です。そういったところが難しい部分ですね。

mySDG編集部:そうですね。日本のダイバーシティの概念は過渡期にあるのかなと思います。私は最近、YouTubeで精神科医の動画を見るのですが、聞き慣れない言葉が多く、最初は戸惑いました。ただ何度も見ているうちにだんだん慣れてきました。昔は専門書か病院でないと、専門的な話に触れることができませんでしたが、今は興味があれば簡単に情報を得られるYouTubeがあります。
情報を手に入れやすい環境が整えば、これまで少数の人しか知らなかった病名も誰でも簡単に知ることができるようになるので、閉鎖的なイメージはなくなると思います。精神医療側も病名を改定していて、患者さんや一般の方に向けても、印象をまろやかにする表現を選んでいるようですね。しかし、さらに一歩踏み込んで、病気ではなく「個性」として社会的に捉えて欲しいですね。
徳本さん:海外の方がそういう意味では発達障害が個性の一つとして受け入れられています。日本はまだ少し時間がかかりそうですね。

mySDG編集部:そうですね。しかし一部ですが、SDGsの風潮もある中で、障害者雇用に力を入れられている企業もあって、取り組みをしている担当者の方は、実際に障害をお持ちの方と共に働き、いわゆる「障害」という認識ではなくて「個性」や「特徴」という表現をされています。実際に身近にいて、関わる存在になると、やはり個性として見ることに弊害がなくなるのではないでしょうか。今後の日本にも期待したいですね。


■AIの時代だからこそ、発達障害の子どもの「非認知能力」を育む

mySDG編集部:学習サポートに従事してきた中で、一番の成果とはどんなことでしょうか?

徳本さん:子どもの顔が変わりますよね。取り組む姿勢も変わります。変化を私が保護者様に伝えることで、成長しているお子さんを理解していただけます。子ども自身にも自らの成長を実感できるように、心理検査などで変化を「見える化」して伝える工夫をしています。

mySDG編集部:なるほど。確かに見えにくいですからね。見える化には主に検査の数値を用いるのですか?

徳本さん:見える化をする方法がいくつかあって、グリッドの検査は、粘り強さのスコアなので、頑張れば頑張るほどスコアが上がっていきます。その結果を目で見て実感につなげたり、ポートフォリオで紙を重ねていって、目標までに積みあがる紙を目で見て、達成部分を実感したり、図を使ってわかりやすく伝えたりしています。見える化は大事ですからね。

mySDG編集部:そうですね。ちなみに徳本さんは、臨床心理士や公認心理師の免許をお持ちということですが、診療をされながら学習サポートも担っているのですか?

徳本さん:精神科クリニックでカウンセリングをしながら学習サポートもしているんです。病院では医療点数だから学習はできないんです。カウンセリングで扱うのは2次障害の部分ですし、そもそも発達障害に治療は必要なのかとも思います。今までの問題部分を切り離して、学習できる場所を用意したんです。

mySDG編集部:SDGs目標は2030年を一つの節目としているのですが、7年後の2030年には達成していたい目標はありますでしょうか?

徳本さん:名古屋市が2023年中に発達障害の子どもの診療センターを新設します。診察や検査の体制は整えられつつあります。しかし、診断と支援は両輪であるべきと、私は思います。発達障害の子ども、グレーゾーンの子どもへ質の高い支援を民間からも行えるような体制を作っていきたいです。7年後、子どもたちがスタディラボルーツで学んだことを応用し、社会に適応できるようになることを願っています。 周りと比べずに自分を好きになって、元気いっぱい、個性を輝かせて欲しいと思います。

mySDG編集部:現在でもパソコンを使って仕事をしている障害者の方が出てきています。7年後にはAIが進化し、新しい職業が増えるかもしれません。 子どもたちの社会でも今までにない可能性や選択肢が広がるでしょうね。

徳本さん:心理学の中では、これからはAIがあるのでIQ85でも職就が厳しいだろうと言われています。AIの時代だからこそ、発達障害の子どもに、非認知能力、人間力を身につけて欲しいので、一緒に育てていきたいと思います。




※1:脳の機能的な問題が関係して生じる疾患であり、日常生活、社会生活、学業、職業上における機能障害が発達期にみられる状態をいう。最新のDSM-5(「精神疾患の診断・統計マニュアル 第5版」)では、神経発達障害/神経発達症とも表記される。(厚生労働省:e-ヘルスネット 参照)

※2:学習障害(限局性学習症、LD)は、読み書き能力や計算力などの算数機能に関する、特異的な発達障害のひとつです。学習障害には、読字の障害を伴うタイプ、書字表出の障害を伴うタイプ、算数の障害を伴うタイプの3つがあります。
学習障害には的確な診断・検査が必要で、一人ひとりの認知の特性に応じた対応法が求められます。(厚生労働省:e-ヘルスネット 参照)

※3:ADHD(注意欠如・多動症)は、「不注意」と「多動・衝動性」を主な特徴とする発達障害の概念のひとつです。ADHDの有病率は報告によって差がありますが、学齢期の小児の3〜7%程度と考えられています。ADHDを持つ小児は家庭・学校生活で様々な困難をきたすため、環境や行動への介入や薬物療法が試みられています。ADHDの治療は、人格形成の途上にある子どものこころの発達を支援する上でとても重要です。(厚生労働省:e-ヘルスネット 参照)

※4:自閉スペクトラム症(ASD;Autism Spectrum Disorder)は多くの遺伝的な要因が複雑に関与して起こる生まれつきの脳機能障害で、人口の1%に及んでいるとも言われています。自閉スペクトラム症の人々の状態像は非常に多様であり、信頼できる専門家のアドバイスをもとに状態を正しく理解し、個々のニーズに合った適切な療育・教育的支援につなげていく必要があります。(厚生労働省:e-ヘルスネット 参照)

※5:「認知能力(cognitive skills)」とは、IQや学力といったテストなどで評価している能力のこと。一方「非認知能力(non-cognitive skills)」とは、物事に対する考え方、取り組む姿勢、行動など、日常生活・社会活動において重要な影響を及ぼす能力のことを言います。(一般財団法人 日本生涯学習総合研究所HP 参照)

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